昨今、AI(人工知能)技術はめざましく進化しています。中でも注目されているのが、「ChatGPT」のような生成AI(Generative AI)です。
高度なAI技術により人間のような自然なコミュニケーションを可能にしたChatGPTのサービスを筆頭に、 文章だけでなく動画生成や編集に至るまでAIを使ったクリエイティブ制作も大きく進化しています。
この記事では、AIで動画が制作できるおすすめのツールを紹介しながら、AIツールを使う際の課題や注意点、さらには今後の展望まで解説しています。
最後まで読み進めていただくことで、生成AIを正しく理解でき、効率良く活用できるようになるでしょう。
■目次
AIツールと動画作成をめぐる動向
プレシデンス・リサーチによると、2022年に108億ドルであった生成AIの市場規模は、2032年には1,180億ドルまで拡大することが見込まれています。
生成AIは、対話や指示をもとに、テキストや画像などを自動で生成するツールです。テキストを入力するだけで動画を自動生成できるAIツールも登場しています。
参考:PRECEDENCE RESEARCH「Generative AI Market」
動画生成AIが注目される理由
動画生成ツールをはじめとする生成AIは、以下の3つの点から注目されています。
- ITやプログラミングの知識がなくても簡単に使える
- 遠い存在と思われていたAIが、身近な領域まで浸透してきている
- AIがクリエイティブ分野でも活用できることが分かった
生成AIの大きな特徴は、簡単に利用できる点です。テキストを入力したり、リンクを指定したりするだけで、画像や動画を自動生成してくれます。動画生成ツールの場合は、動画編集技術がなくても、一定レベルの動画を短時間で作成できるのが魅力です。
その簡単さゆえに、AIを身近に感じる方も増えました。LINEでメッセージを送るだけでAIが画像を生成してくれるサービスも登場し、多くの方が遊び感覚で利用しています。身近な領域までAIが浸透してきていることも、生成AIが注目される理由の1つです。
クリエイティブ分野での活用の可能性にも期待が寄せられています。データ処理や分類・分析のような数理的な作業だけでなく、創造性が求められる領域でもAIを利用できることが分かりました。
このような理由から、生成AIは今後も大きなトレンドであり続けることが予想されます。
動画生成AIサービスのおすすめ5選
動画生成AIサービスには、いくつか種類があります。サービスによって、利用方法や特色はさまざまです。
ここでは、動画生成AIサービスの中から主なものを5つを紹介します。
1.テキストやイメージから動画を生成する「Gen-2」
RunwayResearchの「Gen-2」は、指定したテキストやイメージから動画を生成できるAIサービスです。
RunwayResearchは、もともと「Gen-1」というツールをリリースしていました。Gen-1は、テキストやイメージをもとに、既存の動画から新しい動画を生成できるツールです。動画を一から生成するのではなく、元動画が必要なのがポイントです。
一方、Gen-2では、テキストで動画の内容を指定すると、自動で数秒(4秒)程度の短い動画を生成してくれます。まだおかしな動画を生成することも多いですが、元動画がなくても、指示に合った動画を生成してくれるのが特徴です。
2.サイトから動画を作成できる「Pictory AI」
「Pictory AI」は、テキストやファイルを選択すると、その内容をもとに、簡単に動画を生成できるWebサービスです。ホームページやブログのURLから、サイトの内容に合わせて自動で動画を生成できます。キャプションの自動追加もでき、初心者でもわずか数分で動画を作成できるのが魅力です。
テキスト生成ツールでテキストを生成し、Pictory AIを使ってその内容を動画にする、という使い方も考えられます。
3.アバターが喋る動画を作成できる「Synthesia」「Elai.io」
アバターが喋る動画を作成したい場合は、「Synthesia」と「Elai.io」がおすすめです。
Synthesiaは、テキストを入力すると、AIがテキストを読み込み、アバターが話しているかのような動画を作成できるサービスです。15分で動画を生成できます。アバターは約70種類用意されており、本物の人間と見分けがつかないほど精巧に作られているのがポイントです。
同じく、アバターが喋る動画を作成できるのがElai.ioです。多くのアバターやテンプレートが用意されており、テキストを入力すると、アバターが喋っているかのような動画を簡単に作成できます。
4.ニュースから動画を生成できる「GliaStudio」
「GliaStudio」は、ニュースの投稿や記事を動画に変換できる、動画生成サービスです。ニュースのタイトルや見出し、内容をもとに、ニュースに適した素材とBGMを選定し、ニュースの本文をテロップとともに動画にしてくれます。画像や素材は無料で利用でき、手軽に動画を作成できるのが特徴です。
ニュースを動画で視覚的に理解したい方、短時間で多くの情報をインプットしたい方などに適しています。
AIツールの登場が動画作成にもたらす変化
これまでも、AIによる動画の自動編集ツールが注目されていました。しかし、生成AIツールの登場により、指示を入力するだけで動画を簡単に作成できるようになり、動画制作は大きく変わろうとしています。
動画生成AIツールは、ハリウッド映画でも活用されています。
Seyhan Leeが開発した「Cuebric」は、指示を与えるとAIが背景映像を生成してスクリーンに映し出してくれるツールです。背景の一部をアニメーションに変換することもでき、ハリウッド映画で導入されています。
吹き替えにも、生成AIが活用され始めています。Flawlessの「TrueSync」は、口の形をAIで生成して合成できるツールです。登場人物の口の動きと吹き替えのセリフが合わないという、映画における課題の解決策として期待されています。
ここでは、AIツールの登場が動画制作にもたらす変化について解説します。
ChatGPTとの併用で動画作成がさらに効率化する
動画作成に変化をもたらすのは、動画生成AIだけではありません。ChatGPTのようなテキスト生成ツールと併せて使うことで、より短時間で動画を作成できるようになるかもしれません。
例えば、「〇〇のコツを教えて」とChatGPTに打ち込むと、まるで記事のように情報がまとまったテキストが生成されます。そのテキストを動画生成ツールに入力することで、「〇〇のコツ」に関する動画を効率的に作成できる、という流れです。
常識を覆すクリエイティブな動画も制作できる
動画生成ツールを活用することで、常識を覆すような動画も簡単に制作できるようになります。
動画生成AIは、よくある映像を再現できるだけではなく、突飛でクリエイティブな動画も自在に作成できるのが特長です。動物と無生物を組み合わせた異質な動画や、実際にはありえない状況を再現した動画など、これまではCG技術が必要であった動画も、近い将来AIで生成できるようになるでしょう。
重要な部分の制作に注力できるようになる
AIツールを活用して動画作成を効率化し、人間が重要な部分の作成に注力できるようになる点も見逃せません。
動画の中には「流れ作業で作成しても問題ない部分」と「特に注力して作成したい部分」があります。前者についてAIツールを活用し、浮いたリソースを使って後者に時間をかけることで、クオリティの高い動画をより効率的に作成できるようになります。
特に、手間がかかるアニメ制作においては、AIツールを活用した省力化が注目されています。
動画生成AIツールの課題・注意点
動画作成に変革をもたらすことが期待される動画生成AIツールですが、課題は山積みです。現状では、ツールのみで高品質・高解像度の動画を作成するのは難しく、人の手で修正したりチェックしたりする必要があります。
さらに、知的財産権の侵害や情報の正確性、安全性などにも課題があり、注意して使用しなければなりません。
ここでは、動画生成AIツールが抱える課題や注意点を、5つ紹介します。
1.生成できる動画の時間や品質に限界がある
動画生成AIツールは、生成できる動画の時間や品質などに限界があります。
生成できる動画の長さは、数秒から数分程度であり、長時間の動画作成は難しいです。
また、人間が作成したような高品質な動画を作成できるわけではありません。動画がぶつ切りになっている、映像がぼやけている、よく見ると不自然、非現実など、品質にはいまだに改善の余地が多くあります。高解像度では作成できないのも課題です。
クオリティの高い動画を作成したい場合は、プロの制作会社に依頼しましょう。当社では、幅広い目的やニーズに対応した、高品質な動画制作サービスを展開しています。ぜひお問い合わせください。
2.適切な指示を与える必要がある
指示の内容によって、生成される動画の内容が大きく異なるのも課題です。思いどおりの動画を生成するためには、適切な指示(プロンプト)を与える必要があります。
AIツールがどれほど高性能であっても、指示が適切でなければその能力を発揮できません。簡単に使えるとはいえ、ユーザーの指示能力・表現力がある程度試されるのは、ツールを使いこなす上での注意点です。
3.知的財産権を侵害する恐れがある
生成されたデータが、既存の著作物と同一である、あるいは類似している可能性があります。無自覚で知的財産権を侵害してしまう恐れがある点には、注意が必要です。
AIツールは、既存のデータを学習してデータを生成します。別のクリエイターが作成して発表している動画を、AIが学習している可能性が高いです。そのため、生成された動画が既存の動画の模倣であった、という事態も十分に考えられます。
4.誤った情報が拡散されるリスクがある
AIツールが生成したデータが、必ずしも正しいとは限りません。データをチェックせずにそのまま公開すると、誤った情報を拡散してしまう可能性があります。
既存の画像や映像を別の画像や映像に合成する「ディープフェイク」の登場が問題視されています。有名人が差別的な発言をしているかのような映像や、犯罪行動をしているかのような映像を意図的に作り出せてしまう、注意を要する技術です。特定の人物への風評被害や金銭被害につながるリスクもあります。
動画生成AIツールが浸透することで、誤った情報が拡散されやすくなることは、大きな問題点です。
5.入力した情報の漏洩・悪用の危険性がある
AIツールに秘匿性が高い情報を入力すると、それが外部に流出し、悪用される恐れがあります。
さらに、入力された機密情報を学習したAIが、将来的にその情報を用いたデータを生成してしまう、というリスクもあります。
AIツールを利用する際は、入力した情報がどのように扱われるのか、必ずチェックしましょう。企業がAIツールを使用する場合は、入力してよい情報の範囲を明確に規定し、社内に周知することが重要です。
AIツールを用いた動画作成の今後の展望
この先、AIがさらに進化して多くの写真や動画、キャプションなどのデータを学習することで、生成される動画のクオリティはますます向上することが期待されています。海外では前述のような「AI Video Generators」というジャンルの動画生成AIツールが次々に登場しているようです。
近い将来、AIツールはBGMやセリフが入った、プロに匹敵する動画を簡単に生成できるようになるかもしれません。AIが単独で一から動画を完成させるという未来も、来るかもしれません。動画制作の専門知識や編集技術がなくても、高品質の動画がコストをかけずに制作できるのは、今の段階では信じられないことです。
世界的なベンチャーキャピタルのセコイアは、2022年9月にGenerative AI: A Creative New World (ジェネレーティブAI : 新しいクリエイティブの世界)というレポートを公開しました。それによると、画像生成AIは、2025年には実用的なレベルのプロダクトデザインが可能になる、動画生成AIは、2025年にはドラフトレベルの動画生成が可能になり、2030年には動画を含めてゲームを生成するようになる、と予測しています。
動画生成AIツールをはじめとするAIを活用した動画生成・自動編集のサービスは、長期的に大きなトレンドになることは間違いありません。これからの動向に注目しましょう。