ファスト映画とは映画のあらすじが短時間でわかるようにまとめた、映画のダイジェスト版です。急増の背景には、時短視聴を好む若者の需要があります。しかし、ファスト映画は著作権法違反に問われることがあり、注意が必要です。今回は、ファスト映画の概要や違法性のほか、ファスト映画をヒントに、Z世代に刺さる動画制作のポイントや成功事例を解説します。
■目次
ファスト映画とは?
ファスト映画とは、映画の一部を切り出し、ナレーションや字幕をつけてあらすじがわかるようにした、10分程度の動画のことです。ネタバレも含まれており、映画を見なくても、ファスト映画を見れば短時間で内容が分かります。
すぐに映画の内容を知りたいという人達から人気を集め、さらには動画投稿サイトにファスト映画をアップロードし、広告収入を稼ぐ人もいます。
しかし、ファスト映画は他人が制作した映画を無断で編集したものであり、ファスト映画の制作や公開は、著作権法違反として刑事と民事の両方で責任を問われることがあります。実際に逮捕者も出ており、その違法性が広く知られるようになりました。
映画の著作権について
ファスト映画の違法性について解説する前に、まずは映画の著作権について理解しましょう。
映画は、1人で制作できるものではありません。監督や脚本家、撮影や編集、音楽の担当者など、さまざまな人が関わっています。制作に関わった全員に著作権を与えると、映画を利用する際、それぞれから個別に許可をもらわなければなりません。
そのため映画の著作権については、以下のように定められています。
- 映画会社が発案・企画し、従業員のみで制作して自社の名義で公表する場合は、著作権は映画会社に帰属する
- 映画会社が外部の監督に依頼して制作した場合は、著作者人格権は外部の監督に、財産権は映画会社に帰属する
原作の小説家やシナリオライターなどは、映画全体の著作者にはならない点に注意が必要です。
また映画の著作権保護期間については、映画が公開されてから70年間と定められています。
ファスト映画の制作・投稿は民事と刑事で責任を問われる
上記のように、映画の著作権は映画会社や外部の監督などに帰属するとされており、映画を無断で編集して公開するファスト映画は、著作権の侵害に該当する可能性が高くなります。
ファスト映画には、具体的には以下のような違法性があると考えられます。
- 複製権の侵害(著作権法第21条)
- 翻案権の侵害(著作権法第27条)
- 同一性保持権の侵害(著作権法第20条)
- 公衆送信権の侵害(著作権法第23条)
映像をそのままコピーして使用しているファスト映画には、新たな創作的表現が認められないため、複製権や翻案権の侵害に該当します。
映画のシーンをカットしたりナレーションを追加したりするなど、無断で映像を編集することは、同一性保持権の侵害行為です。
さらに、制作したファスト映画を動画投稿サイトにアップロードする行為は、公衆送信権(著作物を、無断で公衆に向けて送信されない権利)の侵害にあたります。
ファスト映画は引用には該当しない
すでに公表された著作物については、著作権法第32条で「引用の目的上、正当な範囲内であれば引用して利用してもよい」とされています。例えば、他人の論文の一部を引用して自分の論文に記載することは、著作権侵害には該当しません。
ファスト映画については、一部において引用として許されるのではないかとの見解も示されています。
しかし、ファスト映画の制作・公開は引用の目的上、正当な範囲内とはいえず、引用と認められる可能性は極めて低くなります。原則として、引用には該当しないと理解しておきましょう。
ファスト映画急増の背景にある時短視聴の需要
ファスト映画は、近年再生回数や投稿数が増えています。ファスト映画のニーズが高まっている背景にあるのは、特に若年層に多い時短視聴の需要です。
短時間でなるべく多くの話題になった作品を視聴したい、という視聴者側の時短欲求は、サブスクリプション型の動画配信サービスが人気を集めていることにも現れています。
映画は1本で2時間ほどありますが、ファスト映画なら10分程度で映画のあらすじを理解できます。「映画の内容を短時間で把握したい」「わざわざ映画館に行くのが面倒」など、なるべく時間をかけずに映画の内容を知りたいという消費者心理が、ファスト映画を急増させている理由として挙げられます。
これら新しい傾向といえる時短へのニーズに応えられるよう、今後は制作側として何らかの工夫やアイデアが必要なのかもしれません。
ファスト映画に関する3つの注意点
いくら需要があるといっても、ファスト映画は著作権の侵害に該当する可能性が高いため、制作およびアップロードするのは避けなければなりません。事実、逮捕者が出たり、多額の損害賠償を求められたりしています。
過去にファスト映画を視聴したことがある方や、自身が制作した動画がファスト映画に該当しないか不安な方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、ファスト映画に関する3つの注意点を解説します。
1.視聴だけでは違法にならない
動画投稿サイトにアップロードされているファスト映画を視聴する行為自体は、違法ではありません。しかし、ファスト映画を視聴することで、映画の制作者は本来得られるはずの利益を失ってしまいます。そして、違法行為をはたらいた個人や業者に対し、広告収入という形で多額の利益が流れてしまうのが問題です。
視聴行為は違法ではありませんが、創作の苦労を軽んじる行為になるため、視聴しないようにしましょう。
2.著作権を侵害した動画は直ちに削除する
自身が制作した動画が著作権の侵害に該当する場合は、直ちに削除しましょう。「自らの判断で違法行為をやめた」という事実によって、刑事や民事の責任を問われる際、情状酌量される可能性もあると考えられます。
長い間著作権侵害を放置してしまうと、悪質と判断されやすく、厳しい処分を受けることもあります。特に著作者から削除するよう指摘された場合は、放置すると刑事事件や損害賠償請求に発展する可能性が大いにあります。弁護士に相談の上、直ちに削除してください。
3.著作権侵害が不安なら弁護士に相談する
ファスト映画に限らず、自身が制作した動画が著作権侵害に該当していないか不安な場合は、まずは弁護士に相談しましょう。
法律のプロである弁護士に相談することで、実際に著作権を侵害しているか否かを正しく判断できます。万が一著作者から権利侵害を指摘された場合も、弁護士のサポートを受けることで適切に対応でき、和解や賠償金の減額を獲得できる可能性もあります。
ファスト映画をヒントにしたZ世代に刺さる動画とは?
ここまでは、ファスト映画について解説しました。ファスト映画は違法であるため制作してはいけませんが、ファスト映画の特徴を理解することで、新しい価値観、行動基準と注目されるZ世代に刺さる動画コンテンツ制作のヒントになるかもしれません。
ここからは、時短視聴を好むZ世代の特徴や、動画制作のポイントについて解説します。
Z世代は「タイパ」を重視する
Z世代は、タイムパフォーマンス、通称「タイパ」を重視するのが特徴です。タイパとは時間対効果のことで、かけた時間に対する満足度を指します。
タイパを重視する行動の1つが、動画を倍速で視聴することです。
損害保険ジャパンの調査によると、Z世代の70%が倍速で動画を視聴していることがわかりました。Z世代に限らず、Y(ミレニアル)世代・X(バブル〜就職氷河期)世代とすべての世代で、過半数が倍速視聴を行っています。
さらに、動画の再生速度(倍率)の平均は、Z世代が1.5倍速であり、若い世代ほど速いという結果でした。
このように、Z世代を中心に多くの世代で動画を倍速視聴しており、若い世代ほど速い再生速度で動画を視聴しているのがポイントです。
こうした傾向を踏まえた上で、動画編集を工夫する必要があります。
スピード感のある動画を制作する
Z世代に刺さる動画を制作するためには、スピード感を重視することが大切です。同じく損害保険ジャパンの調査※では、動画を快適に感じる速度を、動画内で話しているセリフ1秒あたりの文字数に換算した結果を公表しています。Y世代・X世代は1秒あたり10.1文字であったのに対し、Z世代は1秒あたり12.3文字という結果でした。
※PR TIMES「損保ジャパン『Z世代映像研究課』設立!【若者の動画視聴実態】を調査 Z世代の“快適”な視聴速度は1.5倍速、他世代と比べて約1.2倍のセリフ量をストレスなく理解していることが判明」
つまり、Z世代は他の世代に比べて、ストレスなく感じる動画の速度が速いことがわかります。1カットあたりの情報量を増やしたり、テンポを速くしたりして、スピード感のある撮影と編集が重要になります。
60秒前後のショート動画を制作する
ショート動画とは、スマートフォンで視聴できる60秒前後の短い縦型動画のことです。TikTokやYouTubeショート、Instagramリールなどが該当します。
YouTubeのショート動画については、「YouTubeショート動画とは?企業での有効な理由や今後の可能性も!」をご覧ください。
短い時間で気軽に視聴できるショート動画は、Z世代で高い人気のコンテンツです。損害保険ジャパンの調査でも、Z世代は他の世代に比べてショート動画をよく見ていることがわかります。
Z世代に向けたマーケティングや広告目的で動画を制作する際は、ショート動画を活用するのが有効といえます。もしZ世代をターゲットにしたプロモーションをご検討であれば、ショート動画の制作を考えてみてはいかがでしょうか。
タイパを意識した動画制作の成功事例
最後に、タイパを意識した動画制作の成功事例として、佐渡島のキムチ専門店「キムチの家」を紹介します。
「キムチの家」は、自社商品を宣伝するショート動画を、TikTokに数多く投稿しています。白菜をテンポよく切ってキムチを作る動画や、みかんや梅干しといった変わり種を使ってキムチを作る動画などが人気を博し、全国から通販に注文が殺到しました。「TikTok LIVE」で販売を呼びかけた「白菜キムチ」200個分が、わずか3分で完売したほどです。
TikTokアカウントを開設してから、2ヶ月で売上は40倍以上になり、2023年3月10日現在、TikTokのフォロワー数は約25万人となりました。
参考:note「TikTokで売上40倍に!LIVEでも3分で200個売れる。佐渡島でキムチをつくる親子に起きたこと」
参考:TikTok「キムチの家@佐渡ヶ島(kimuti.house.jp.ne.co) 」
まとめ
今回は、ファスト映画の違法性や注意点、ファスト映画が急増している背景について解説しました。
ファスト映画とは、映画の一部を切り取って編集し、映画のあらすじがわかるようにしたものです。ファスト映画の制作およびアップロードは、著作権侵害に該当する可能性が高いため、避けなければなりません。
ファスト映画の人気が高まっている背景には、Z世代を中心に時短視聴を好む層が増えていることがあります。若年層をターゲットにした動画を制作する際は、タイパを重視する若者の傾向を捉えてクリエイティブを考えることが大切です。