AR/VRといえば、エンタメ分野で活用されているイメージがある方も多いでしょう。実は、医療分野でも積極的に利用されており、医療における多くの課題を解決する手段として注目されているのです。今回は、医療分野におけるAR/VRの活用について、事例とともに解説します。
医療分野でのAR/VRの活用とは?
AR/VRは、エンターテインメント分野や観光業、社内教育など、さまざまな領域で活用されています。近年注目されているのが、医療分野におけるAR/VRの活用です。
AR技術は、現実の情報とリンクさせて、周囲の人と見えているものを共有できるのがポイントです。治療中の情報確認用デバイスとしての応用や、遠隔医療、画像診断など、幅広い場面での活躍が期待されています。
VR技術は、リアルな状況を擬似的に作り出せるため、シミュレーションやトレーニングへの応用が進んでいます。
このように、医療分野のあらゆる場面において、AR/VRの活用が期待されているのが現状です。
AR/VRとは?
AR/VRは並列して使われやすい言葉ですが、それぞれ異なる技術です。
ARとは、「Augmented Reality(拡張現実)」の略で、現実の風景にCG映像等を重ねて、現実世界を拡張させる技術を指します。
一方、VRは「Virtual Reality(仮想現実)」の略で、専用のゴーグルを装着してVR映像を視聴し、仮想空間をリアルに擬似体験できるものです。
医療分野では、レンズの部分がディスプレイになった複眼ゴーグルが使用されます。右側と左側で区切って映像を表示させることで、立体的に見える仕組みです。
このように、現実世界に新たな情報を加えて現実を拡張するのがAR、限りなくリアルな仮想空間を一から作り上げるのがVR、といえます。
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医療分野でAR/VRを活用する効果
医療分野でAR/VRを活用することは、多くのメリットがあります。AR/VRは、診察や治療、医療教育や遠隔医療など、幅広い領域で活用されることが期待されている技術です。従来の医療の限界を超え、高品質な医療を多くの方に提供する可能性を持っています。
ここでは、医療分野でAR/VRを活用する具体的な効果について解説します。
患者の見えなかった患部の可視化
VRを活用することで、患部を3Dで表現でき、これまで肉眼で確認できなかった患部も可視化できるようになりました。
これまで、目視できない患部の状態や疾患については、画像や紙で確認する必要がありました。しかし、VRによって、より視覚的に把握できるようになったのです。また、ARを用いて患部の情報を患部に重ねて表示すれば、直感的に症状を理解できます。
このように、VRやARで患部を可視化することで、治療のシミュレーションを効果的に行えるのがメリットです。
患者や家族に病状を説明するインフォームドコンセントに活躍
インフォームドコンセントとは、患者や家族が病状や治療について理解し、双方の合意のうえでどのようなケアを選択するか決定することです。
インフォームドコンセントでは、医療に関する知識がない患者や家族も納得できるよう説明することが求められます。その際に、口頭だけでなく、視覚的にわかりやすく説明できるARやVRが役立ちます。
医療教育現場でよりリアルな構造を学べる
AR/VRは、医療教育現場でも役立つ技術です。例えば、臓器のVR映像を作成することで、学生やインターン(研修医)は臓器の構造や働きについて深く理解できます。
また、通常は見られない体内の構造を、実際の人間の表面に重ね合わせて表示することで、より具体的なイメージにつながります。
さらに、医療現場をVRで再現した教材を用いることで、学生や研修医は臨場感を持って医療現場の実務を擬似体験できます。
このように、リアルな構造を学んだり現場を体験したりすることで、テキストベースの学習よりも、理解度を高められるのがこの技術のメリットです。
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医療シミュレーションによる医療従事者の技術向上
手術のシミュレーションにおいても、VRは活躍します。高精細なVR映像を用いたシミュレーションでは、難易度が高い手術や希少な症例、模型での訓練が難しい手術についても修得できます。
時間や場所にとらわれず、何度も繰り返し練習できるのも魅力です。仮想空間で多くの経験を積むことで、医療従事者の技術向上が期待でき、実際の手術にも自信を持って臨めます。
また、医療従事者間での技術差がなくなり、多くの患者に同じ品質の治療を提供できます。
仮想体験による不安や痛みの緩和
VRが持つ没入感を活用し、仮想体験によって治療中の不安や痛みを緩和するのが「VRディストラクション」です。
VRディストラクションとは、患者にVR映像を視聴してもらい、意識をVRコンテンツに向けさせることで、治療中の不安や痛みをやわらげる手法です。診療科目を問わず活用でき、幅広い医療分野での活用が期待されています。
遠隔医療の実現
AR/VRは、遠隔医療・遠隔診察を実現するソリューションとしても注目されている技術です。医師不足が深刻化している現在、遠隔医療の重要性が叫ばれています。従来の遠隔医療はカメラを通して医療行為を行う必要があり、実用性に乏しいのが課題でした。
しかし、VR技術を活用することで、遠隔地にいる患者の動作情報を医師のヘッドマウントディスプレイに投影し、患者が目の前にいるかのように診察できます。
また、AR技術により、スマートグラスを着用した看護師が患者のもとに訪問し、遠方の医師が看護師からの映像をもとに診察する、という診察スタイルも現実味を帯びています。
リハビリなど治療技術の向上
ARやVRによる治療技術の向上も、期待されています。その1つが、リハビリでの活用です。患者がヘッドマウントディスプレイを装着し、VR空間でリハビリを行うことで、これまでよりも機能訓練を効果的に進められます。
ゲーム要素を追加して楽しんで取り組めるようにしたり、リハビリ情報をデータ化して効率化できたりなど、多くの可能性を秘めているのが魅力です。
医療分野におけるAR/VRの活用事例
AR/VRは、医療分野におけるあらゆる場面で活用されています。ここでは、以下の場面ごとに、実際の活用事例を見ていきましょう。
- 診察
- 治療
- リハビリ
- 手術
- 教育
- 医師同士の情報共有
診察
カナダのアルバータ大学の研究チームは、「ProjectDR」という技術を開発しました。これにより患者の身体の表面に、臓器や骨格などの体内の映像を重ねて表示することが可能になります。体の向きや動きに連動して映像も変化するため、体内が見えているかのように感じられる仕組みです。
MRIやレントゲンで画像診断を行う場合に比べて診察がしやすくなり、誤診の確率をさらに低くできることが期待されています。
参考:ProjectDR
治療
株式会社ジョリーグッドと大塚製薬は、統合失調症向けソーシャルスキルトレーニングVR「FACEDUO」を共同開発しています。社会生活場面を教材に、多数のコンテンツを用意しており、限りなくリアルな当事者(患者)体験が可能です。
VR映像には患者向けのアドバイスも加わっており、社会で人と関わりながら生きていくために必要なスキルを、スムーズに身につけられます。
参考:大塚製薬とジョリーグッド、統合失調症向けVR支援プログラム 「FACEDUO(フェイスデュオ)」を提供開始
リハビリ
株式会社 mediVRは、リハビリ用医療機器「mediVRカグラ」を提供しています。仮想空間上の狙った位置に手を伸ばす動作を繰り返し、姿勢バランスや認知処理機能を鍛えるリハビリをサポートする機器です。5種類のゲームを用意しており、楽しみながらリハビリができます。
また、デューク大学が推進しているのは、脊髄損傷により歩行が困難な患者を対象にした「VR歩行訓練」です。VRが持つ没入感を活かし、映像を見ながら効果的に歩行訓練ができます。
参考:mediVR「製品紹介」
参考:Scientists have found a way to make paraplegics move again
手術
イギリスで開発された「Proximie」は、遠隔で医師同士が協働できるAR手術支援システムです。手術中のライブ映像に、遠方にいる専門家が説明や図などを上から投影します。
執刀医は、どこを切るべきか、どの部分を避けるべきかなどを確認しながら手術できる仕組みです。難易度の高い手術も、専門家のサポートを受けながらスムーズに進められます。
参考:Proximie
教育
スタンフォード大学は、心臓について学べる教育用VR「The Stanford Virtual Hearts」を開発しました。コントローラーで心臓を動かせるため、あらゆる角度から心臓を観察できます。
まるで心臓が目の前にあるかのようなリアルさで、理論と結びつけて学びを深められる学習コンテンツです。
株式会社ジョリーグッドが提供する「オペクラウドVR」は、手術の様子を撮影し、VR映像をクラウドに保存できます。学生は、時間・場所を問わず、いつでも繰り返し体験学習が可能です。希少な症例や、名医による手技を擬似体験でき、高い学習効果が期待できます。
参考:The Stanford Virtual Hearts
参考:オペクラウドVR
医師同士の情報共有
サン電子株式会社は、ARスマートグラス「Ace Real One」を提供しています。現場の映像や音声を、遠隔でリアルタイムに共有できるのが特徴です。現場から届いた映像に、遠方から指示を加え、スマートグラスに送信もできます。
「Ace Real One」の活用方法として注目されているのが、遠隔医療です。遠方の医師と現場にいる医師同士で情報共有でき、経験豊富な医師が遠方から現場の医師に的確な指示を与えられます。
参考:Ace Real One
世界でも注目されている医療現場でのAR/VR技術
医療現場でのAR/VR技術の活用は、以前より世界的に注目されています。2019年にアメリカで実施された大規模な医療カンファレンス「HIMSS 19」では、多くの企業が医療用のAR/VR技術について発表しました。
医療におけるAR/VRは、スタートアップから大手医療機器メーカーまで、多数の企業が参入している領域です。特に、トレーニングに活用できるAR/VR技術が注目されており、積極的な投資・研究が進んでいます。
今後の医療業界での展望と期待
医療業界では、今後もARやVRの技術が積極的に活用されることが予想されます。株式会社グローバルインフォメーションが発表した調査レポートによると、医療分野におけるMR(複合現実)の市場規模は、2020~2026年に年平均成長率57.3%で成長し、2026年には7億2390万米ドルに達すると予測されているほどです。
しかし、課題も多く残されており、浸透するまでにはまだ多くの時間を要するでしょう。懸念されているのは、ヘッドマウントディスプレイが重すぎて長時間の手術には対応できない点や、病院によって取り入れるシステムが異なることで、操作方法を覚える医師の負担が増大してしまう、などの課題です。
改善すべき点は多いものの、AR/VR技術には多くの可能性が秘められており、医療業界での活躍がますます注目されています。
参考:医療分野における複合現実の市場規模、2026年に7億2390万米ドル到達予測 – 株式会社グローバルインフォメーションのプレスリリース
まとめ
ARやVRは、診察や治療、手術、教育など、医療分野におけるさまざまな場面での活用が期待されている技術です。日本だけでなく、世界中で多くの企業が開発を進めています。
課題はありますが、市場規模はますます拡大し、医療におけるあらゆる課題を解決する手段になることが期待されます。AR/VRの今後の動向に注目しましょう。