動画コンテンツに音響は欠かせない要素です。
まるでその場にいるかのような臨場感ある音響で、より没入感のある演出を可能とする音響の最新技術「立体音響」をご存じでしょうか。
立体音響は「3D Audio」や「イマーシブオーディオ」とも呼ばれ、その名のとおり音が立体的に聴こえてくるというもので、VR動画やゲームなどに必要な「没入感ある世界観」の表現に欠かせない技術となって、様々な分野での活用が進んでいます。
それでは、音の臨場感や音像を向上させる技術の魅力や実際の効果は、どのようなものなのでしょう。今回はそんな疑問にお答えするため、立体音響技術について解説します。
■目次
立体音響技術の代名詞「サラウンド」
サラウンドをわかりやすく説明すると、いろいろな方向から音が聞こえてくることです。
1つのスピーカーから音がする環境は「モノラル」といい、音は一方向からだけ聞こえてきます。左右2つのスピーカーから音がする環境は「ステレオ」で、モノラルよりも音の聞こえる空間に広がりや奥行きが生まれ、臨場感を得られます。
音の聞こえる空間は「音場」といわれ、音の定位、どこでどんな音がしているか判別できるものを「音像」といいます。
この定義を応用して5つ以上のスピーカーによって全方位に音場を広げ、リアルな音像を表現するのが「立体音響(サラウンド)」です。
立体音響が一般的に広まったのは1940年代、ウォルト・ディズニー・スタジオの手がけた「ファンタジア」という映画で「サラウンド」という音響技術が用いられたことがきっかけといわれています。
サラウンドとは
「サラウンド」とは、「surround:取り囲む」という意味のとおり、音が聴く人を取り囲むように前後左右さらに上から再生される環境を指します。
サラウンド(サウンドシステム)は、一般的に1基のモノラルスピーカーや、左右2基のスピーカーによるステレオスピーカーのような音場構成に加えて、
・センタースピーカー(中央に配置し、主にナレーションや会話に焦点を合わせます。)
・サラウンドスピーカー(後方に配置し、環境音に焦点を合わせます。)
・サブウーファー(低音を強調するスピーカーで、爆発音や地響きなどの低音効果に焦点を合わせます。)
上記3つの役割を持つスピーカーを追加することで、さらに立体的な音像を表現する音響技術です。
また、サラウンドは「チャンネルベース」の立体音響技術なので、各スピーカーに定位的な固有の役割を与えるため、各スピーカーに対して「ch」という単位が割り当てられています。
一般的なサラウンドチャンネル
具体的なサラウンドチャンネルの振り分け、役割については
・Front Right(右前)のチャンネル
・Center(中央)のチャンネル
・Front Left(左前)のチャンネル
・Surround Right(右サラウンド)のチャンネル
・Surround Left(左サラウンド)のチャンネル
・Sub-Woofer(低音)のチャンネル
のチャンネル分配を基礎とする、5.1ch(5つのスピーカー+1つのサブウーファー)サラウンドシステムが主流です。
さらに
・Surround Back Right(右後ろサラウンド)のチャンネル
・Surround Back Left(左後ろサラウンド)のチャンネル
を追加した、7.1chサラウンドシステムも現在では一般的となっています。
映画のサラウンドシステムを家庭に
サラウンド技術の魅力は映画館に留まらず、家庭用のホームシアター機器の普及をみてもその人気の高さが伺えます。
このサラウンド音響システムを進化させてきた主な企業である「Dolby」や「SONY」は多くの方がご存知だと思います。
それでは、これらの企業が進化させた、汎用性の高い先進的な立体音響を紹介します。
新しい立体音響技術「オブジェクトベース」
いま現在、先進的な立体音響技術といえば、
・Dolby社が開発した「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)」
https://www.dolby.com/ja/technologies/dolby-atmos/
・SONY社の開発した「360 Reality Audio」
https://www.sony.co.jp/Products/create360RA/
のような「オブジェクトベース」の立体音響技術が挙げられます。
これらは、音源を「空間に存在する『オブジェクト』(変動的な物体)」として定義することのできる「オブジェクトベース」という定義によるもので、音にXYZの三次元座標、位置情報を与えて、対応機器側でレンダリング(音像を出力)させることで、どんなスピーカーレイアウトであっても、予め指定された音場に伝えたい音像が聞こえるように音をシミュレートできる特徴があり、左右のみならず前後や上下方向にも音の位相を動かすことが可能です。
これまではサラウンドを筆頭に特定のスピーカーに固有の定位を与える「チャンネルベース」の立体音響が一般的でしたが、この「オブジェクトベース」立体音響の登場によって、音は再生機器に関わらず前後左右や上下など、縦横無尽に動くことが可能となりました。では、これらの技術はどのように使われているのでしょうか。
立体音響技術の用途
立体音響技術は、その没入感を高める豊かな位相と音像から得られる効果が大きいため、その需要は映画館やホームシアター以外にも、音源配信アプリやスポーツ・イベント中継、コンピュータゲームやメタバース、AR/VR分野での応用も進んでいるほか、最近では車載用コンテンツへの需要も高まりを見せています。
1.映画館やホームシアター
ホームシアターはサラウンド機器の普及と共に大きな発展を遂げてきました。最近は「サウンドバー」のような床に設置する棒型のスピーカーなども立体音響再生機器として人気です。
2.音源配信アプリ
iTunesのような大手プラットフォーム上でもDolbyAtmosのような立体音響を体験することができます。最近では音源だけでなくDolbyAtmos対応の映画も購入できるようになりました。
3.イベント中継
2020年オリンピック開会式のNHK中継が8K映像と22.2chの立体音響で放送されたのは記憶に新しいところです。汎用性はDolbyAtmosに軍配があがりそうですが、360 Reality Audioはアーティストの配信イベント等に積極的に対応しています。
4.ゲーム開発ツール
UnrealEngineやUnity、Wwiseなどをはじめとするゲームエンジンやサウンドミドルウェアはまさにオブジェクトベースの音源をデザインするのに最適といえます。
5.メタバースやVR/AR分野
最近人気のゴーグル型のデバイスの普及と共に標準化されるといわれている立体音響の活用範囲です。Apple社、Meta社をはじめ各社がこの新しい流れに取り組んでいます。
6.車載用コンテンツ
新しいモビリティの形として、車内で聴く立体音響は近年大きく注目されつつあります。大手自動車メーカーでは車内に立体音響のオーディオシステム搭載を始めています。
これからのクオリティが求められる立体音響環境では、視聴者が物の位置を音で認識できる「音の位置情報の定義」や、リアル環境とデジタル情報の融合を可能にする音響表現が必要となるため、「オブジェクトベース」の立体音響技術は、今後コンテンツ制作に無くてはならない要素になるでしょう。
一方で、チャンネルベースの概念を応用した立体音響技術の進化もいくつか紹介します。
・バイノーラル録音
バイノーラル録音はステレオ録音方式の一つで、人間の聴覚に似せるため頭部の形をしたマイク(バイノーラルマイク)や、360°からの音を集音するマルチチャンネルマイクを利用して、あたかもその場に居合わせたかのような臨場感を再現するものです。
この録音技法は、4chの収録用マイクがネットショップで2万円代で入手できるなどの手軽さも相まって、実写系のVRコンテンツをはじめYoutubeコンテンツとしても人気が出てきています。
・バイノーラルビート
バイノーラルビートもYoutubeなどで視聴することができます。バイノーラルビートとは、左右で少しだけ周波数が異なる音を左右の耳それぞれに聞かせることで、聴感上のゆらぎを発生させる音による刺激を楽しむものです。リラックス効果が得られるとして、ヒーリングミュージックの中で最近関心が高まっています。
特定のゆらぎが生まれる周波数で脳を刺激することで、集中力アップ、ストレス軽減といった効果が期待されており、気分を変える作用があるなどの脳波への影響について研究されています。
立体音響を用いたコンテンツ
以下に、立体音響コンテンツの事例を紹介します。
・Dolby Atmos対応配信視聴アプリ[NeSTREAM LIVE]
https://nestreamlive.radius.co.jp/dolby/
・バイノーラル録音Webサイト
【ロンドン国際アニメーション映画祭2022 Best Abstract Film Award受賞作品紹介(作品も閲覧可能)】 https://biz.musicecosystems.jp/blog/miroirs/
・バイノーラル録音Webサイト[オーストラリアを8Dオーディオ動画で体感]
https://www.australia.com/ja-jp/travel-inspiration/experience-australia-in-8d-audio.html
まとめ
立体音響技術は、音の再現性や空間的な表現力、没入感を向上させることで、新しい形のエンターテインメントや超臨場感体験を可能にしてくれます。
また、ウェアラブルデバイスや音響システムの進化に伴い、立体音響を体験・活用している先進的なユーザーによる新しい臨場感コミュニケーションについても、注目が集まっています。
「オブジェクトベース」の立体音響技術は、今や映画のみならず、ゲームやメタバースをはじめ、放送業界やWebサイトなど様々なコンテンツへの需要が高まっています。サラウンド再生環境はもちろん、ヘッドホンやステレオスピーカーなど日常的な再生環境でも再現され、体験することができます。
また、「チャンネルベース」のステレオ/サラウンド音源も、バイノーラルマイクや360°集音マイクの出現により、Youtubeをはじめ様々なコンテンツに活用されはじめています。
そして聴覚だけでなく、ウェルビーイングやマインドフルネス等の感覚分野、ボディソニックなどの触覚分野でも、進化した立体音響技術に大きな可能性が見出されており、様々な技術革新やその利用方法が次々と登場しています。
今回は、立体音響技術について解説しました。
動画コンテンツ制作の折には、ぜひ立体音響の採用を検討してみてはいかがでしょうか。
音響効果や音源制作について、当社では専門的な知見を持ったスタッフによる対応を行なっています。いつでもお気軽にご相談ください。
出典
https://www.jas-audio.or.jp/journal_contents/journal202111_post16208